【管理栄養士解説】「老後が不安」な今こそ見直したい。 寝たきり予防を食事から

長生きするなら、最期まで元気に過ごしたい。歳を重ねても、やりたいことを楽しめる体でいたい。このように感じている方も多いのではないでしょうか。将来を見据えて日々の食事を整えることで、寝たきりや介護のリスクを減らし、自分らしく元気に過ごせる時間を延ばすことにつながります。この記事では、将来の寝たきりを防ぐために今からできる食事のポイントについてご紹介します。
「長生き=幸せ」とは限らない!?見落とされがちな老後の現実
日本は世界でも有数の長寿国ですが、誰もがただ長生きするだけではなく、最期まで元気にピンピンコロリと逝きたいと考えるのではないでしょうか。健康上の問題なく、自立した生活を送れる期間を「健康寿命」と呼びます。実はこの「健康寿命」と、亡くなるまでの期間を示す「平均寿命」には、約10年もの差があります[1,2]。
『令和6年版高齢社会白書』によると、令和3年度の要支援・要介護の人の割合は75~84歳で約18%、85歳以上では約59%にものぼり、年齢が高くなるにつれて増えているのが現状です[3]。
老後の「10年の不安」が生まれるワケ

要介護の主な原因には、認知症、脳卒中、骨折・転倒などがあります[4]。その中でも脳卒中は、高血圧や2型糖尿病などの生活習慣病によってリスクが高まることが知られています[5]。
また、高齢になると食欲の低下により「やせ」や「栄養不足」が起こりやすく、それが筋力、体力の低下を招き、転倒や骨折、さらには寝たきりのリスクにつながることがあります[4,6]。
こうした老後の10年の不安を少しでも減らすためには、生活習慣病の予防と低栄養への対策、その両方が欠かせません。
共通のカギは「適正体重を維持すること」
生活習慣病の予防にも、高齢期の「やせ」の予防にも共通して大切なのが、適正体重を維持することです[6]。
食べ過ぎは肥満を招き、生活習慣病のリスクが高まります[7]。一方で、食事量が足りないと体重が減り、「やせ」や「栄養不足」につながります[6]。
肥満や低体重の判定に用いられる「BMI(体格指数)」は、体重と身長から計算できます。
BMIは、18.5以上25未満を目指しましょう。なお、65歳以上の方は、20を超えて25未満が望ましいとされています[7,8]。
自分のBMIと体重の変化をみながら、食事量を調節することが大切です[8]。
※BMI=[体重(kg)]÷[身長(m)²]
生活習慣病を防ぐ食事ポイント
厚生労働省は、「健康寿命」の延伸を目指した施策『健康日本21(第3次)』を推進しています。その中から、具体的な生活習慣病予防のための食事ポイントをご紹介します[8]。
主食・主菜・副菜を揃えた食事を心がける
様々な食品をとり入れることで、必要な栄養素を適切に摂ることができます。
薄味を心がける
食塩を控えることは、脳卒中や心疾患のリスクとなる高血圧の予防につながります[9]。
野菜や果物を積極的にとる
野菜や果物は、カリウムや食物繊維を含む食品が多く、これらの栄養素をとるうえで大切な役割を果たしています[10]。中でもカリウムは血圧を下げる方向にはたらく栄養素です[6]。
高齢期の「やせ」を防ぐ食事ポイント

加齢とともに筋肉量が減少し、身体機能が衰えた状態を「サルコペニア」といいます。「サルコペニア」が進行すると活動量が減り、食欲も低下しやすくなります。これが「栄養不足」を引き起こし、最終的に自立と要介護の中間にあたる「フレイル」につながる可能性があります。「やせ」や「栄養不足」も「サルコペニア」や「フレイル」のリスクとなるため、適切な食事をとることが大切です[6]。
たんぱく質を十分にとる
たんぱく質は、筋肉や骨など体をつくる栄養素であり、特に高齢期には、筋肉量の減少を防ぐためにも意識して摂ることが大切です。1日の中で体重1kgあたり1.2gのたんぱく質を摂ることで、「サルコペニア」や「フレイル」を予防できる可能性があると考えられています[6]。
(例)体重60kgの場合、1日72g。1食あたり24g。
また、たんぱく質は主に肉、魚、卵、大豆製品、穀類などから摂ることができます。
(例)ご飯(150g)+鶏むね肉(80g)+冷奴(100g)=約24gのたんぱく質。
さらに野菜などを加えると他の栄養素も補うことができます[10]。
ただし、腎疾患のある方はたんぱく質制限がある場合がありますので、主治医に相談してください[6]。
いつまでも「やりたいこと」を続けられる体を目指して
食事は「健康寿命」を支える土台であり、日々の食事が将来のからだをつくります。年齢を重ねても、自分の足で歩き、行きたい場所へ出かけ、やりたいことを楽しむ。 そんな未来を叶えるために、まずは今日の食卓から見直してみませんか。
【参考文献】(すべて2025年6月11日閲覧)
[1] 厚生労働省, 健康寿命の令和4年値について
[2] 厚生労働省, 令和4年簡易生命表の概況, 3 平均寿命の国際比較
[3] 内閣府, 令和6年版高齢社会白書, 2 健康・福祉
[4] 厚生労働省, 2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況, Ⅳ介護の状況
[5] 日本脳卒中学会, 脳卒中ガイドライン2021 [改訂2023]
[6] 厚生労働省, 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
[7] 日本肥満学会, 肥満症診療ガイドライン2022
[8] 厚生労働省, 健康日本21(第3次)推進のための説明資料(その1)
[9] 日本高血圧学会, 高血圧治療ガイドライン2019
[10] 文部科学省, 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
著者プロフィール

管理栄養士・Yuka
一人ひとりの“心と身体が調和する暮らし”をサポートしたいという想いで、フリーランス管理栄養士として活動。複数の医療機関での経験を活かし、忙しい日々の中でも“自分を整える時間”を持てるよう、ライフスタイルに寄り添った提案を得意とする。
ハーブやアロマなど自然の恵みと、科学的根拠に基づく栄養学を組み合わせ、五感と心を満たす、やさしい健康サポートが特徴。