【管理栄養士監修】妊娠中は何を食べればいい?必要な栄養素と避けたい食品徹底解説

※ヘルスケアライティングアカデミーを卒業した、弊社所属の専門家ライターが執筆した記事です。
妊娠中は、つわりで食欲が落ちる、食べられるものが限られるなど、食生活が乱れやすい方も多いのではないでしょうか。妊娠期は、赤ちゃんの成長と母体の健康を支えるため、普段以上に多くの栄養が必要となります[1]。すでに妊娠中の方でも「今から意識をして整える」ことが大切です。
今回は、妊娠中に摂取を心がけたい栄養素や、毎日の食生活で意識したい工夫、注意すべき食品について、管理栄養士が科学的根拠に基づいてご紹介します。
妊娠期のからだの変化と栄養の関係
妊娠期は「初期(妊娠1〜13週)」「中期(妊娠14〜27週)」「後期(妊娠28週以降)」の3つの時期に分けられます。特に初期は、赤ちゃんの脳や神経が作られる大切な時期です。一方で、中期から後期にかけては、胎児の成長スピードが増し、母体の血液量も大きく増加します。
このような体の変化に伴い、エネルギーや栄養素の必要量も高まります。そのため、「食べる量をただ増やす」のではなく、「質を意識してバランスよくとる」ことが大切です。
では、妊娠の時期ごとにどのくらいのエネルギー量や栄養素量がプラスで必要となるか、詳しく見ていきましょう[1]。
妊娠中は、どのくらい食べればいいの?
妊娠中は、赤ちゃんと母体が健やかに成長するために、妊娠前よりも少し多めのエネルギーが必要になります。
妊娠初期は+50kcalとわずかな増加ですが、妊娠中期には+250kcal、妊娠後期には+450kcalの付加が推奨されています。
ただし妊娠中に必要なエネルギー量は、妊娠前の体格(BMI)や体重増加量、胎児の発育状況によって個人差があります。そのため、体重の変化を確認しながら、無理のない範囲で調整していくことが大切です[1]。
妊娠期に意識したい5つの栄養素
妊娠中にプラスで必要になるのは、たんぱく質、ビタミンA、鉄、葉酸、亜鉛などの栄養素です。
1.たんぱく質
たんぱく質は、胎児や胎盤の発育に欠かせない栄養素であり、妊娠期には母体の体内でも需要が高まります。
妊娠初期には付加量の設定はありませんが、中期以降は需要が高まり、妊娠中期では+5g、後期では+25gの付加が推奨されています[1]。
たとえば、卵(約6g/1個)、牛乳(約7g/200ml)、鶏胸肉(約23g/100g)、鮭(約17g/1切れ)、木綿豆腐(約7g/100g)、納豆(約7g/1パック)などをうまく組み合わせると、自然に摂取量を増やせます[2]。
2.ビタミンA
ビタミンAは、胎児の発達に欠かせない栄養素ですが、胎児自身が作ることはできないため、母体から胎盤を通して届けられます。視覚、成長、皮膚や粘膜の健康維持など、体のさまざまな働きに関わる大切なビタミンです。
妊娠初期および中期に付加量の設定はありませんが、妊娠後期にはビタミンAが不足しないように、+80μgRAEの付加が設定されています[1]。
ビタミンAは、鶏レバー(14,000μgRAE/100g)などのレバー類、うなぎの白焼き(1,500gμRAE/100g)、ほうれん草(450μgRAE/100g)、にんじん(730μgRAE/100g)などに多く含まれています[2,3]。
ただし、ビタミンAの過剰摂取による胎児への影響が懸念されるため、18歳以上では、妊娠の有無や性別に関わらず、耐容上限量の2,700μgRAEを超えないように注意が必要です[1]。
3. 鉄
鉄は、胎児や胎盤の形成、母体の血液量増加に必要で、妊娠期に特に意識すべき栄養素の一つです[1]。
妊娠初期では+2.5mg、中期、後期は+8.5mgの付加が必要とされています[1]。
鉄は、牛もも肉(2.8mg/100g)、鶏レバー(9.0mg/100g)、きはだまぐろ(2.0mg/100g)、あさり(2.1mg/100g)、大豆(2.2mg/100g)、小松菜(2.1mg/100g )などに多く含まれています[2,3]。
また、従来は動物性食品に含まれる「ヘム鉄」の方が吸収が良いとされてきましたが、最近では植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」も、体の栄養状態によってはヘム鉄以上に吸収されることがあると考えられています。したがって、肉や魚などの動物性食品と、大豆製品や野菜などの植物性食品を組み合わせてバランスよく摂ることが大切です[1]。
4. 葉酸
葉酸は妊娠初期にとても大切な栄養素で、胎児の神経管閉鎖障害(脳や脊髄の発育異常)の予防に関わっています。神経管は受胎後およそ28日で閉じるため、妊娠を考えている方や可能性のある方および妊娠初期の妊婦は、サプリメントや強化食品で1日400μgの葉酸をとることが推奨されています。ただし、サプリメントをとっているからといって、食品からとらなくても良いということではありません。
妊娠初期は体内の葉酸濃度が適正に維持されるため、付加量は設定されていませんが、妊娠中期、後期には200~240μgの付加が推奨されています[1]。
葉酸は、グリーンアスパラガス(180μg/100g)やほうれん草(110μg/100g)、枝豆(260μg/100g)などに多く含まれています[2,3]。
5. 亜鉛
亜鉛は妊娠中期以降に低下するため、母体に亜鉛を蓄えることは、分娩後の母乳への亜鉛を維持するためにも必要です。
妊娠初期は付加量の設定はありませんが、中期、後期で+2mgの付加が必要とされています[1]。
亜鉛は、牛もも肉(4.5mg/100g)、プロセスチーズ(3.2mg/100g)、アーモンド(3.6mg/100g)などに多く含まれています[2,3]。
妊娠中に気をつけたい食品
妊娠中は、赤ちゃんと母体の健康を守るために、避けたい食品や注意が必要な食材もあります。
たとえば、生肉や加熱不十分な肉料理はトキソプラズマ感染のリスクがあり、刺身やスモークサーモンなどの生魚やナチュラルチーズなどの加熱殺菌されていない食品はリステリア菌への注意が必要です[4,5]。
また、水銀濃度が高いとされるメカジキ、クロマグロ、メバチマグロなどの魚の摂取は、週1回までに控えることが推奨されています[6]。
今日から始める!妊娠中のバランス食生活
妊娠中に「完璧な食事をしなければ」と思う必要はありません。大切なのは、毎日の食事で少しずつバランスを整えることです。つわりで食べられない日があっても大丈夫。少量でも工夫して取り入れることが、母体と赤ちゃんの健康を守る第一歩です。
またサプリメントは、基本的には葉酸のみを活用し、他の栄養素はできるだけ食事からとりましょう[1]。不安があるときは一人で悩まず、医師や管理栄養士に相談すると安心です。
著者プロフィール

管理栄養士
望月 ひより
総合病院にて10年以上管理栄養士として勤務し、延べ1万件以上の栄養指導を経験。生活習慣病や高齢者支援に力を注ぎ、現在は健康福祉分野で地域住民を対象にした健康教育や食育活動を行っている。
